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カオスエンジェルズ作り話

カオスエンジェルズの作り話でござる。すっごくフィクションでありカオス本編とは無関係でござる。
ひきかえす


広大な城の一角。一人の少女が歩いていた。
 
黄金色の髪の毛は背の中ほどまで美しく切り揃えられ、水色の瞳はどこまでも澄み渡る湖のしんと静まり返った水面の輝きにも似た光を放っていた。
表情は、よくわからない。優美な微笑を浮かべているかのような口元であるが、眼は笑っていない。一体何を思っているのか、つかみどころの無い表情である。ただ言えるのは、彼女は美しいということだけだった。
 
ここは北の国の王、カウス13世の城の中。そしてその子、王子ゼスの為に用意された区域であり、民間人は勿論のこと一般の兵士、大臣さえも入ることの許されない場所である。
其処を歩いている、ということはそれは取りも直さず、少女がこの区域を自由に動くことを許された存在であること、即ち王により選ばれ王子の為に生きることを定められた娘達のひとりであることを示していた。
 
娘の名は、マリアンヌといった。代々北の国の王家に仕える重臣の家柄で、父は北の国の大臣、兄はカウス13世の親衛隊の隊長を務めている。彼女は望むならばどんな男性にでも嫁ぐことが出来た。なのに、彼女は今、此処にいる。王子の侍女として仕えている。
 
マリアンヌは、今年18歳になる。王立魔法学校に12歳から3年通い、主席で中退した。中退理由は王子の侍女になった為であるが、もし侍女にならずに学校で学び続けていたら高名な魔女になっていたかも知れない。なのに、彼女は今、此処にいる。王子の侍女として仕えている。
 
マリアンヌの足がふと止まった。ここは、王子の領域の一隅にある運動場だ。王子の侍女たるもの、いつなんときといえども王子を守る義務があり、各自は自己管理の及ぶ範囲のなかで出来うる限り、この運動場にて技術の鍛錬に務めるべし。侍女総則の一項である。
マリアンヌはそのなかの魔法練習場に入った。細長い建物の奥には、魔法仕掛けで不規則に高速で動き回る、的人形が数体蠢いている。これを破壊するのが練習内容である。
彼女は呪文の詠唱を始めた。マリアンヌの周囲に、光の粒子が数多湧いて出たかと思うと、それらは両手を揃えて前方に構えるマリアンヌの指先へとゆっくりと集まっていった。
 
「はっ!!」
 
彼女が呪文を唱え終え一喝すると、光の集団は一本の線になって的人形へと向かっていった。途中で光は的人形の数だけ分岐し、全ての的人形に突き刺さった。
的人形たちは、ピタリと止まった。そして、今自分たちが受けたその光の圧倒的な熱量に耐えかねて、皆その場でドロドロに溶けてしまった。
 
「ふう・・・」
 
マリアンヌは溜息をついた。その溜息には、どこか苛立った所があった。
それが何を意味するのかはわからない。
 
「わーーー」
「お見事―」
「ぱちぱちぱち」
 
背後で、拍手が巻き起こった。マリアンヌはまた溜息をつくと、後ろを振り向いた。そこには3人の少女がいた。此処にいるということは、彼女たちも王子の侍女、つまりマリアンヌの同僚なのだろう。
 
「こんなの、いつもやっている事じゃない。喜んでくれるのは有難いけど・・・ そろそろ飽きないの? キラ、メラ、ララ?」
 
マリアンヌは呆れたように3人の娘に言い放った。キラ、メラ、ララというのはどうやら3人の娘の名前らしい。
 
「えー、だってスゴイじゃんかー」
「そうだよそうだよ」
「二人のいうとおりー」
 
3人は口答えした。3人の声は同じであり、まるで一人が喋っているようだった。
 
「マリアンヌは贅沢だよー」
「お姉さまのいうとおりー」
「二人のいうとおりー」
 
話を総合すると、3人の娘は姉妹であるようだった。3人とも外見は違うのだが・・・
 
「それはこっちの台詞よ、貴方達だって3人で組めば誰よりも強いじゃない」
 
「でもひとりじゃ弱いもん」
「そうだそうだ!」
「二人のいうとおりー」
 
3人娘はステレオで騒いでいる。マリアンヌは劣勢である。埒が明かないので、ここは引くことにした。
 
「ああもうわかったわよ。でも、ホントにこんなことはいつもやっている事、いつでも出来る事。練習場、なんて言いながら何の練習にもならないわ・・・  王子を守るための私たちなのに、私なのに・・・ これで守れるのかしら?」
 
マリアンヌの苛立ちはこういった理由であった。確かにマリアンヌの魔法力は素晴らしい物がある。しかし練習場の施設ではあまり成長は出来ないようだ。
 
「それもそうだね」
「魔法は王子がすでに極めているしね」
「二人のいうとおりー」
 
「あたし達3人だって、王子の魔法に比べたら子供みたいなものだしね」
「あたしたちが王子に守られちゃったりして」
「二人のいうとおりー」
 
ステレオは鳴り響く。王子ゼスの魔法才能は傑出しており、既に北の国では最高のものとなっていた。王子は12歳、年齢は子供そのものなのに、老練の魔術師が長い間修行して習得した魔法を一度見ただけで覚えてしまう、そんな凄さがあった。マリアンヌの魔法は王子に比べたら玩具のようなものだった。
 
「でも、マリアンヌの光線魔法は凄いって。自信もちなよ」
「そうそう。普通の奴は一撃でコロンだよ」
「二人のいうとおりー」
 
ステレオなりにマリアンヌの悩みは理解しているらしい、彼女たちなりにマリアンヌを慰めているのだろう。マリアンヌは少し申し訳なくなった。
 
「フフ、ありがとう。ところで今日はどうしたの? 見物のために来たんじゃないんでしょう?」
 
「あっそうそう、今日はニュースを持ってきたんだよ」
「ちょっといい話」
「ニュース、ニュース!」
 
「今度、王子は13歳の誕生日を迎えられる、勿論知ってるよね?」
「王子は王に、プレゼントをおねだりになられたそうだよ!」
「それは何かと訊ねたら〜」
 
「王子は、ご自分の設計した塔を作ってほしいと仰ったそうだよ」
「城から離れた場所に。別荘みたいなものかしら?」
「塔〜 塔〜」
 
「塔はちょっと古風なデザイン、6階建て地下室屋上つきだって!」
「なんでもそこにあたしたちのお部屋も作ってくださるらしいよ!」
「わーい、わーい」
 
「お城じゃ、王様の目が光ってるからあたしたちもそんなに王子と一緒にいられないけど、その塔は完全に王子のもの。完全に王子とあたし達だけの場所になるらしいよ!」
「コーデリアにきいたんだから間違いないよ!」
「わーい、わーい」
 
マリアンヌは目を丸くして聞いていた。ステレオが止むと、言葉を選ぶようにゆっくりと言った。
 
「そう、すごいわね・・・ もうすぐ王子も13歳か・・・ その塔・・・ はやく完成するといいわね。びっくりしたわ、教えてくれてありがとう・・・」
 
「でしょ、でしょ!」
「それだけ知らせに来たの!」
「じゃあね〜」
 
キラ、メラ、ララは嵐のように去っていった。
 
魔法練習場にはマリアンヌひとり残された。マリアンヌは的人形達の残骸を片付けると、長居は無用とばかりその場を後にした。
 
マリアンヌはすたすたと足早に歩いている。その足取りは乱れない。目的地をしっかりと定めた上での移動なのだろう。
広い中庭に出ると、マリアンヌはきょろきょろと辺りを見回した。誰かを探しているのだろうか。
 
(この時間なら・・・ 大体ここに・・・)
 
マリアンヌの視線が止まった。その先には大きな木があり、その下には一人の少女が座って、本を読んでいた。その少女は金色の髪をもてあそびながら、すこし憂鬱そうに座っている。本を読んでいるようだが、ページはめくらない。読んでいるのだろうか。マリアンヌは少々焦れったそうに、少女に呼びかけた。
 
「コーデリア!!」
 
コーデリアと呼ばれた少女は、ふと顔を上げた。その両瞳は、それぞれ別の色の輝きを放っていた。
 
「そろそろ来る頃だと思っていたわ、用件も大体承知しているつもりよ。」
 
コーデリアはマリアンヌの来訪をまるで予期していたように言った。その表情は晴れ晴れとしたものではない。
 
「キラ達から聞いたわ。塔・・・ ウロボロスの塔の話を! あの話、もう皆に言って大丈夫になったの?」
 
「やっぱり、その件ね・・・ キラ達に言ったのもついさっきの事なんだけど・・・ あの娘たち、貴方になついているから。すぐこうなるかなとは思ったわ」
 
「あの話は貴方と私しか知らなかったはず、どうして?」
 
「王子が皆に言うように私に仰ったのよ」
 
「!!」
 
マリアンヌは驚愕した。その発言が何を意味するのかを理解するが上だ。
 
「皆に言う、ということは・・・ もう、この話が止まるはずのない事になった。そういう意味よ!」
 
「そのとおり」
 
コーデリアははっきりと言い切った。そのオッドアイからは、毅然とした光が放たれている。
 
「王子の塔には、魔法が施されていて、新月満月を基点として時を巻き戻す。王子と、私たちを永遠の輪廻のなかに突き落とす。それは・・・ もう揺るぎない事実になる、そういう事なの?」
 
「そのとおり」
 
コーデリアの返答は変わらない。
 
「自然の摂理に反するわ! そして、そうなったらカウス王は・・・ この北の国はどうなってしまうか考えたの? コーデリア! 王子はまだ若くしていらっしゃるわ、貴方が・・・ くやしいけど王子に一番近い貴方が! ちゃんと王子に説明すれば! まだ後戻りできたのに!」
 
マリアンヌは取り乱していた。
ゼス王子が王にねだった塔の真実を、コーデリアとマリアンヌはただ二人、王子本人から聞かされていた。王子は、老いを果てしなく嫌った。年をとり大人になることを果てしなく忌んだ。そして、侍女たちとの生活をこよなく愛した。これらを叶える手段が、ウロボロスの塔の建設だった。
マリアンヌは反対した。彼女自身は王子を敬愛していた。その才能、その純粋さ、その精神、その容姿・・・ 主従にあってはならない感情すら抱いていた。それでも、その塔は作られてはならないと直感していた。
生まれ、老い、病い、そして死ぬ。人間である以上これは定められた運命である。それに真っ向から逆らうことになるのだ。永遠は人間ならば誰もが望むことであろう。それでも、実現した者は只の一人も居ない。永遠を王子が手に入れたところで、その後一体どうなるのかは誰も知らない、誰も示すことが出来ない事なのだ。
王子にはきちんと成長して、この北の国をその才能でもって素晴らしく治めて歴史に名を残していただきたい。そんな願いは今、こなごなに打ち砕かれた。
 
「王子は間違っているのかもしれない。貴方の言うこともわかるわ。それでも・・・ 私は王子に従う。王子が過つのであれば、私も従い過つ。王子の望むこと全てが、私の望みなのだから」
 
コーデリアは最早詮無き事と言わんばかりに宣言した。
 
「貴方の住居は、6階と決まったわ。王子の誕生日は、勿論貴方もご存知の通り1週間後の満月の日。塔は、国の魔法使いが総動員して明日から建設が開始されるわ。それでは・・・」
 
コーデリアは立ち上がると本を脇に抱え、歩き出した。
マリアンヌは、それに声をかけることも出来ずに、その場に呆然と立ち尽くしていた。
 
しばらく時がたってふと我に返ったマリアンヌは、のろのろと自分の部屋へと歩き始めた。
 
(王子・・・ 私の考えは、貴方の趣に沿わなかったのでしょうか?)
 
マリアンヌは考えていた。
 
(私は、貴方に始めてお目にかかったとき・・・ 3年前の魔法学校での邂逅より今まで、何一つ反抗したことはございませんでした。只、ずっと貴方のお側にお仕えしたいがために全てを捧げて参りました。それでも・・・ それでもやはり、コーデリアの言を取られるのですか?)
 
歩きながら、ぽろぽろと涙が流れ始めた。
 
(私の只一度の意見は、後にも先にもこれきりの意見は・・・ 心に少しも止めて下さらなかったのですか? 王子!)
 
マリアンヌは涙をふき取ることもせず、流れるままに任せていた。
 
マリアンヌは部屋に漸く辿り着いた。誰にも見咎められることなく辿り着けたのは幸運であったと言える。
部屋には、一頭の大きな獅子が待っていた。侍女とはいえ巨大な北の国の王子の直属の侍女、部屋に動物を住まわせることは許されていた。
 
「ラゴンヌ、おとなしくしていた?」
 
獅子は、がおっと吼えると、マリアンヌに擦り寄ってきた。
 
「疲れたわ、ちょっと横になるわね」
 
獅子、名をラゴンヌと呼ばれたマリアンヌの良き友は、マリアンヌの気持ちがわかるかのようにベッドにその巨体を横たえた。マリアンヌはラゴンヌに寄りかかるようにベッドに身を投げ出した。
 
「ラゴンヌ・・・ ウロボロスの塔は作られてしまうわ。優しい王子の事ですから、きっと貴方も住むことを許されるでしょう。住み慣れたこの部屋とも、さようならね・・・」
 
ラゴンヌは、小さく唸るとマリアンヌの顔をなめた。
 
「ふふ・・・ 慰めてくれるの? 大丈夫よ・・・ 気持ち、切り替えるから・・・ こんなこと・・・ あったって・・・ 私は・・・ 王子・・・ を・・・ 守るから・・・・・」
 
マリアンヌは、うとうとと眠りにつこうとしていた。
ラゴンヌは主人がしっかりと眠れるように、死んだように体を固定した。
 
(王子・・・ マリアンヌは王子に逆らいました・・・ この罪、永遠の輪廻の中で必ずや償います・・・ この先何が起きようとも、私は王子の忠実な侍女であり続けます・・・ 王子を守るために、この拙い身の全てを捧げます・・・)
 
 
 
日も暮れようとしていた。空には既に、来るべき運命の日に向かって少しずつ満ちていく月が、ぼんやりと浮かび上がっていた。

おしまい。